【6月10日 AFP】反政府勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」とスリランカ政府との間で難航している和平交渉の再開を目指しスリランカを訪問していた、明石康日本政府代表(スリランカ復興支援担当、76)は9日、4日間の会談日程を終え「和平交渉の再開にはまだ望みがある」との見方を示した。

■激しい戦闘で危ぶまれた訪問

 スリランカ国内では、同代表の訪問を前に、北部および東部で激しい戦闘が発生し、多数の戦闘員が死亡している。明石氏によれば、こうした戦闘の発生が、同氏の訪問に向けた準備を妨げたという。

 コロンボ(Colombo)で取材に応じた明石代表は「国内には危機感と緊張感が張りつめ、重苦しく、落胆した雰囲気が漂っている。だが、わたしはこの国の将来について、ある程度の望みと楽観的な展望をもっている」と語った。

■日本政府はスリランカへの支援を継続

 スリランカ国内の「暴力の連鎖」を断ち切るため、同国に圧力をかけるべきだと訴える国際的人権団体が、東京都内でロビー活動を展開している。だが、明石代表によれば「現時点で、日本政府が、スリランカ政府に対する援助の削減や、LTTE資産の凍結を実行する計画はない」という。

 明石代表はまた、過去にスリランカを植民地支配していた英国およびドイツが債務救済措置を凍結したことに言及し「援助提供者の中には、スリランカに対する支援の延期や打ち切りを決定した者もいる。われわれは、支援の現状に満足していない。われわれの援助は、戦闘の被害者に対するもの。指導者の行動や方針が原因で他の人々が罰せられるべきではない」と述べた。

 スリランカに対する2国間支援の約3分の2は、日本からの支援で占められている。

■マスコミに対する迫害行為をめぐり監視を約束

 明石代表はスリランカ出国前に、マスコミの権利を訴える主要5団体と面会し、マスコミへの迫害行為に関する調査書類を受け取った。同書類には、過去15か月に発生した、記者や新聞会社職員ら9人の殺害事件も含まれている。

 同団体の活動家、Sunanda Deshapriyaさんは「われわれは明石氏と面会し、国内メディアが置かれている状況を説明した。日本政府は全面的に独立系報道機関を支援し、スリランカの状況をしっかり監視すると約束してくれた」 と語る。

■明石氏滞在中、タミル系住民一時強制移送

 明石代表の滞在期間中には、コロンボ市内の低価格ホステルに宿泊していたタミル系住民数百人を警察当局が銃でおどし、260キロメートル離れたVavauniyaの収容所に移送するという事件が発生した。同事件に対して世界中から非難が殺到し、マヒンダ・ラジャパクサ(%%Mahinda
Rajapaksa%%)大統領は8日、タミル系住民をコロンボに呼び戻すとともに、責任者である警察署長に対する捜査を命じた。

 明石代表も、強制退去が実施された方法について懸念を示し、「大統領が決定を覆したことを喜ばしく思う」と語った。

 スリランカ国内の戦闘は、同代表の滞在中も継続していた。9日には、国防省が「8日以降、政府軍は東部の紛争で、LTTE戦闘員30人を殺害した。政府軍側も死亡者を1人出した」と発表した。

 明石代表は「激しい戦闘が展開されていたことや、全関係者が参加した上で政治的解決を促す必要があったために、今回の訪問ではLTTEの拠点地域を訪問できなかった」と語り、和平交渉の進展が遅いことに「落胆した」と付け加えた。

 同代表は「当事者はスリランカ国民。国民らが決意を固める必要がある。どんなに強力であったとしても、部外者は忍耐強くなければならない。われわれは、限定的でありながらも有益な、自身の役割を十分認識している」と述べた。

 LTTEはタミル人の分離独立を目指して35年にもわたり戦闘を繰り広げており、死亡者は6万人以上に達した。(c)AFP/Mel Gunasekera