【10月8日 AFP】4日に開幕した第12回釜山国際映画祭(12th Pusan International Film Festival、PIFF)。本来はパーティーやエンターテインメントがすべての映画祭だが、今回は人々の心の大半を政治が占めている。前週、平壌(Pyongyang)で南北首脳会談が開催され、映画祭に出品された作品は政治に関するものも多いため、政治を抜きには語れないのだ。

 同映画祭のKim Dong-ho実行委員長は、「本映画祭は、芸術性の高い作品に焦点を当てています。高い芸術性は、ここで上映される作品の多くの主題に反映されています」と語った。

 オープニング作品となった中国人監督フォン・シャオガン(Feng Xiaogang)の『集結号(Assembly)』は、中国で国民党と共産党が内戦を戦っていた1948年を舞台にしている。

 6日にプレミア上映を迎えた、韓国人監督Kong Mi-yeunのドキュメンタリー『Battlefield Calling』は、韓国軍兵士の生活を追い、紛争に直面することによってその意見がどんな影響を受けるかを描いた作品。Kong監督は、「わたしたちの世代にとって、戦争は他人事ではないということに気付いてから、この映画制作を進めてきました。戦場は、今や家庭にとても近い場所になっているのです」と話す。

 同作品では、韓国の政治情勢をイラクやパレスチナと比較し、国家の安全が常に脅かされる中で、国民の世界観が形成されていく様子を示している。「今回のニュース(南北首脳会談)は韓国の緊張を和らげましたが、同じようなことは過去にもありました。本当に変化が起きるかどうかはまだ分かりません」とKong監督は続けた。

 上映後には、Kong監督と観客の間で討論会が行われた。

 兵役を終えたばかりのBae Jung-hwaさんは、「現在の若者世代は、政治に対する関心が深い。軍に入隊する前は、自分が戦争で戦うことをイメージできませんでしたが、今は考えが変わりました。紛争を目の当たりにすれば、政治家が何と言おうと、それはどこででも起こり得るということが分かります」と指摘した。

 大学生のJune Sohnさんは、自国の兵士たちがイラクやアフガニスタンへ派遣される中、この作品は現在の韓国社会のムードを反映していると思ったと述べ、「わたしたちの多くは、海外へ派遣された友人をもっていて、現地での出来事が友人たちをどう変えたかを見ています。わたしたちは皆、状況の改善を望んでいます。しかし、何を信じてよいのか分かりません」と話している。

 Kong監督は、自分の作品が観客たちに考えてもらうきっかけになったことをうれしく思うと話し、同映画祭では今後も時事映画を上映してほしいと期待を表明。「わたしは人々に考えてもらいたいと思ってこの映画を作りました。しかし、映画制作者としては常に観客を動員する必要があります。この映画祭は、わたしのような人間の作品を観客に観てもらう絶好の場となっています」と語った。

 今年の釜山国際映画祭は12日までの日程で275作品を上映予定。8日からはアジアンフィルムマーケット(Asian Film Market)も4日間にわたり同時開催される。(c)AFP/Mathew Scott