【8月25日 東方新報】世界各国に展開する成人向け英語学校「華爾街英語(ウォールストリートイングリッシュ、Wall Street English)」の中国事業が破綻したと報じられ、多くの職員や受講者が大混乱となっている。長引く新型コロナウイルスの影響や、中国政府が「中国版ゆとり教育」を打ち出した影響も指摘されている。

 ウォールストリートイングリッシュは1972年にイタリアで設立。中国には2000年に参入し、「英語業界の巨人」とも言われた。現在は11都市に39校のスクールがある。中国メディアによると、華爾街英語北区の責任者が8月12日、各スクールの校長に「来週、破産を発表する。職員の離職手続きを進めること」と通知したという。この報道後、受講者が窓口サービスに電話してもつながらず、各スクールは無人状態となっている。

 各地の労働人事争議仲裁所には、スクールの職員が「3か月も給料を受け取っていない」と助けを求めて殺到している。受講者の被害も深刻だ。3万~15万元(約51~254万円)のコース授業料を払っている人が多く、中には最高級クラスで90万元(約1521万円)の契約を結んでいた人もいる。授業料を支払ってレッスンが受けられない受講生は約1700人で合計金額は1億元(約17億円)を超えるという推計もある。相談を受け付けている弁護士は「裁判を起こせば勝訴するだろうが、実際に返金されるかは難しい」と打ち明ける。

 破綻の理由としては、新型コロナウイルスの感染拡大により海外留学や海外赴任が激減したこと、ロックダウン(都市封鎖)やステイホームの影響でオンライン学習が急速に広まったことが挙げられる。華爾街英語はホワイトカラー向けに大都市中心部のオフィス街に教室を構え、人材確保や賃料の面から運営コストが高かったという分析もある。ただ、インターネット調査会社の艾媒諮詢(iiMedia Research)の張毅(Zhang Yi)CEOは「三尺の厚い氷は、一日の寒さでできるものではない(問題は長年の蓄積で生まれる、の意味)」と指摘。華爾街英語がコロナ禍以前から始まっていたオンライン教育の波に乗り遅れていたとみる。米ウォルト・ディズニー・カンパニー(The Walt Disney Company)直営の英語スクール「ディズニー・イングリッシュ」は昨年6月に中国からの撤退を表明。オンライン学習の拡大と、コロナ禍で保護者が子どもを通わせることを敬遠している事情を挙げ、返金業務などを済ませて2008年から中国に進出した歴史に終止符を打っている。

 一方、華爾街英語がこの時期に破綻したことは、中国政府が7月下旬に発表した「双減(小中学生の宿題を減らし、学習塾に通う負担を減らす)」政策の影響も考えられる。過熱する受験戦争にブレーキをかける狙いで、学校の宿題内容を細かく制限した上、既存の学習塾は非営利組織とすることを求めている。学習塾は週末や長期休暇のレッスンも禁止され、オンライン授業も子どもの視力保護のため時間制限を設け、海外在住の外国人講師の雇用も禁止している。子ども向けオンライン英会話大手の「51Talk」は8月9日、双減政策に対応して「海外の外国人講師のレッスンは今後行いません」などの新方針を表明している。コロナ禍と双減政策のダブルパンチで、中国の英会話業界は実店舗型もオンライン型も「冬の時代」が続きそうだ。(c)東方新報/AFPBB News