【8月2日 東方新報】中国南部・広東省(Guangdong)広州市(Guangzhou)の中山大学(Sun Yat-sen University)中山眼科センターは7月25日に記者会見を開き、林浩添(Lin Haotian)教授らの合同チームが自主開発した「5G遠隔高精度眼科手術ロボット」によって、世界で初めてマイクロメートルレベルの遠隔手術に成功したと発表した。ロボット開発には同大コンピューター学院の黄凱(Huang Kai)教授のチームら分野をまたいだ多くのグループが関わった。

 手術が行われたのは6月下旬。5G通信を通じた高画質の立体顕微鏡技術を用い、中山大学のある広州市から約600キロ離れた海南省(Hainan)海口市(Haikou)の病院にあるロボットを遠隔操作。実験に使われた12羽のウサギは、手術後1か月経過した今も問題なく順調な回復を見せているという。眼科手術ロボットによる遠隔手術は、現在は動物実験の段階だが、今年下旬から来年上旬にかけて臨床でも使用を目指す計画。実用化されれば、患者が家にいながら専門的な眼科手術を受けられることも不可能ではない。

 黄斑の変性や網膜の異常といった眼病患者は増加傾向にあり、眼底外科医の需要は大きいものの、正確で安定したオペ技術が求められる眼底手術に精通した医師は国内で1000人に満たない。医師でさえ生理的な手の震えや振動は避けられず、マイクロメートルレベルのオペを安定して正確にできるようになるには、通常なら10年以上の熟練が必要というが、眼科手術ロボットには熟練医師の不足を補える点も期待される。若い医師でもリモコンレバーで手術ロボットのアームをコントロールすることで精密かつ安定した操作が可能で、ベテラン医師の手術水準に達することができるという。

 さらに、手の震えを排除できるロボットを使えば、人間の手では達成できない正確さでピンポイントに患部に薬剤を投入することなどができ、より良い治療効果が期待できるという。  

 林教授はこう話す。「髪の毛1本の厚さは80マイクロメートルで、眼球の黄斑部分の網膜の厚さは150〜300マイクロメートルです。薬品を網膜の層の間に注射する正確さは臨床上では実現できず、眼球腔に注射するだけです。しかしロボットを使えばこの難関を突破できます」

 中国では今、国産手術ロボットの開発に資本と技術が注がれている。その背景には世界における手術ロボットの市場拡大がある。2015年に30億ドル(約4251億円)だった市場規模は、2020年には83億2000万ドル(約1兆1790億円)まで成長した。そこには米国のインテュイティヴ・サージカル(Intuitive Surgical)が開発し、2000年に米食品医薬品局(FDA)の認証を受け、世界的な大ヒットとなった内視鏡手術支援ロボット「ダビンチ」が大きく貢献している。

 中国でもダビンチに続かんと、精峰医療科技(Edge Medical)や杭州鍵嘉医療科技(Jianjia Robot)などの多数のメーカーが国産ロボットの開発に邁進(まいしん)するが、商業的な成功に結びつくのは必ずしも容易ではない。そんな中で、眼科手術ロボットによる遠隔手術の成功は、大きな希望にもなっている。(c)東方新報/AFPBB News