【8月5日 AFP】ウクライナのロシア占領地に住むアンナマリアちゃん(6)。ウラジミール・プーチン(Vladimir Putin)大統領を「ボバおじさん」と呼び、「世界の大統領」だと信じていた──。

 アンナマリアちゃんの母親である、ウクライナ軍高官のカテリーナ・スコピナさんは昨春、東部の港湾都市マリウポリ(Mariupol)で自身と夫がロシア軍に拘束された際、娘を親戚に預けるしか選択肢がなかった。

 ロシアから解放された後、ウクライナ西部に住むスコピナさんはAFPに対し、親ロシアの親戚たちは、アンナマリアちゃんをロシア占領地域に1年以上もとどめていたと語った。娘はマリウポリ郊外の村にある幼稚園に通い、「洗脳プログラム」を受けていたという。

 子どもの救出を手掛けるNGO「セーブ・ウクライナ(Save Ukraine)」のミコラ・クレバ(Mykola Kuleba)代表によると、親ロシア派がウクライナ東部で支配地域を広げた2014年以降、アンナマリアちゃんのように、ロシア支配地域に住む子どもの数は約150万人に上っている。

 クレバ氏は、アンナマリアちゃんのような子どもの多くがロシア人に「洗脳」され、ロシアの支配地域にとどまりたいと思うようになっていると話す。

■「ウクライナを憎悪」

 クレバ氏によると、多くはロシア市民権を持つ若者に成長し、洗脳され、ウクライナを憎んでいる。

 スコピナさんは、ロシア側との交渉に当たるウクライナ当局者の協力を得て、5月に娘を取り戻した。

 AFP記者が訪れた際、アンナマリアちゃんは父親と一緒に庭で楽しそうにサッカーに興じていた。

 アンナマリアちゃんは、母親に後でどこに行くかをロシア語で尋ねた。ウクライナ語を話したがらなくなっているという。「『(ウクライナ語を)話したくない。ロシア語で話そうよ』と言ってくることがある」と、スコピナさんは明かした。

 クレバ氏は、こうした傾向は、ロシアの占領地域で暮らした子どもたちによく見られると話す。

「ロシアの主な目標は子どもたちをロシア人化し、ウクライナ人としてのアイデンティティーを破壊することだ。ただ破壊するだけでなく、ウクライナに対する憎しみを植え付けることだ」。クレバ氏は「ウクライナに戻りたがらない子どもも多い」と語った。

■進むロシア化

「何十万人もの子どもたちがすでにロシア市民権を得て、ロシアが救世主であり、そこにとどまる方が良いとの考えを受け入れている」とクレバ氏。「私たちが取り戻した全ての子どもたちは、収容施設やロシアの学校にいた子どもたちで、ロシア人に教えられた通り、ウクライナは国家ではないと信じ込んでいる」と嘆いた。

 スコピナさんは、2014年以降、アンナマリアちゃんはロシア人になったと主張する義父母から、娘を取り戻した。娘はウクライナでの生活にすぐに適応したという。

 アンナマリアちゃんは最近、昨年の欧州国別対抗歌謡祭「ユーロビジョン・ソング・コンテスト(Eurovision Song Contest)」で優勝したウクライナ出身のバンドの楽曲「ステファニア(Stefania)」を覚え、口ずさんでいる。「子どもたちに何かを教える必要はない。自分たちで学んでいく」と、スコピナさんは話した。(c)AFP/Daria ANDRIIEVSKA