【10月18日 東方新報】中国東部・浙江省(Zhejiang)杭州市(Hangzhou)のあるライブ配信スタジオでは40台以上のパソコンが一列に並んでいて、スクリーン上で四六時中バーチャルパフォーマーがライブ配信をする光景が見られる。

 その内容は、本物の人間のインフルエンサーがやるような商品販売だ。ライブ配信による商品販売が盛んな杭州では、すでに5万人のライブパフォーマーが活動しているというが、最近はさらにバーチャルパフォーマーが加わっている。

 今やバーチャルパフォーマーはコンサートや観光地などでも活躍している。中国で動画配信などのパフォーマーのアカウントは1億4000万近くあり、そのうちバーチャルパフォーマーが4割を占めるという。5000万を超える数だ。

 バーチャルパフォーマーが人気の理由の一つはコストが安い点だ。インフルエンサーのライブ配信による商品宣伝や販売は中国で有力な販促ツールだが、従来のライブ配信なら毎月10万元(約204万5100円)以上のコストがかかる。

 ところがバーチャルパフォーマーなら、毎月数千元(1000元<約2万円>)程度のコストとパソコン1台、運営の人員1人を備えていれば、独自のライブ配信を行える。高いコストをかけてインフルエンサーなどに頼るわけにはいかない中小のブランドやメーカーにとってはありがたい。

 ただ、技術的にはまだまだ発展の余地がある。

 声と映像がずれたり動作が不自然だったり、ライブ配信の強みである視聴者との双方向性の部分においても反応が遅れたりかみ合わなかったりという問題がしばしば生じる。そのため、バーチャルパフォーマーによる配信が実際の商品販売につながっているか、その効率が問題視されることもある。確かに、化粧品や洋服などの商品では実際に使用した感想などが得られるリアルなパフォーマーにはかなわないが、決まりきった商品、例えば観光地のチケットやホテルの優待券などをおすすめするのならバーチャルでも十分な効果が期待できる。

 大手リサーチ会社・艾媒諮詢(iiMedia Research)の「2023年中国バーチャルパフォーマー産業研究報告」によれば、中国でバーチャルパフォーマーによってもたらされる産業の市場規模は、2022年で1866億1000万元(約3兆8164億円)、2025年には6402億7000万元(約13兆942億円)に達すると見込まれている。

 ただ、活躍の場が広がるにつれ新たな問題も生じている。

 バーチャルパフォーマーには大きく分けて2種類あるという。一つは、テレビ番組などで使われ始めているバーチャルキャスターのような、人工知能(AI)を用いて技術的に作り上げられる完全に仮想のもの。もう一つは、実際には人間のモデルがいて、その動きに合わせて二次元の世界に仮想の容姿や背景を作り上げたものだ。だからといって必ずしもその姿がモデル本人に似ているわけではない。

 バーチャルアイドルのファンは、実際の人間のモデルがいることを知っていたとしても、声援を送るのはあくまでもバーチャル上のキャラクターに対してだ。背後にいるモデルは本来、その個人情報を含め完全に秘匿されるべきものだが、中国ではそのモデルの暴露を専門とする確信犯的なブロガーなどが現れた。また、モデル自身が待遇の不満を訴えるために自ら名乗り出てしまった例もある。配信を一時期休止していたバーチャルパフォーマーが「実は誘拐されていた」などの発言をして警察騒ぎとなり、その発言がウソだったことが分かり、アカウントが停止されるなどといった事態も起きた。

 バーチャル上のキャラクターのモデルを暴くことは、その商品価値を破壊する行為であり、バーチャルであっても背後にいるモデルはリアルな人間としてきちんと守られなくてはならない。

 これらは一例にすぎないが、技術の進歩のみならず、同時に社会の認識や法的な整備が進んでこそ、バーチャルパフォーマーによって素晴らしい未知の世界が広がるはずだ。(c)東方新報/AFPBB News