【5月26日 Peopleʼs Daily】河北省(Hebei)三河市(Sanhe)にある中国地震局工程力学研究所(以下「工力所」と略称)の科学技術园区で、スマート建設、建築構造、耐震力学の専門家からなる研究チームが、緊張しながら「破壊性実験」を行っている。振動台の上で、3Dプリント製の住宅模型が、今まさに「生死」に関わる衝撃にさらされている。

 この3Dプリントコンクリート住宅模型は、浙江大学(Zhejiang University)建築工程学院の孫暁燕(Sun Xiaoyan)准教授のチームが実験のために持ち込んだものだ。3Dプリント製の住宅は頑丈なのか?これは孫准教授が最もよく訊かれる質問だ。

「頑丈かどうか、最も重要なのは耐震性能だ」と彼女は言う。彼女のチームは、デジタル建築とプリント設計に特化した企業「霊砼科技(杭州)」と共同で、3次元デジタルモデルを用いて精密計算を行い、3Dプリント技術で製造された住宅の耐震性能は、すでに理論的には非常に優秀だと確認できている。そしてさらなる検証を行うため、チームは多くの分野、多くの学会の専門家と議論を重ね、今回いよいよ振動台を使った模型実験を行うことを決めた。

 振動台とは地震を模擬実験できる装置である。今回使用する振動台は「3方向6自由度振動台」で、水平方向と垂直方向の振動のほか、様々なタイプの回転的な振動も起こすことができ、国内で最も先進的な地震模擬実験装置だ。「工力所」の振動台サイズ制限に基づき、孫氏のチームは工場に長さ5メートル、幅1メートル余りの最大サイズの「縮尺比全屋模型」を製作した。

 今回の実験では、6種類の地震発生時の状況)を設定し、それぞれ7回ずつのテストを行うという。「テストの目的は、模型を破壊するまで揺らし、どの段階の揺れまで耐えられるか、どの程度の大きさの地震に耐えられるかを検証することだ」、孫氏は笑いながらこう言った。

「開始!」の声が発せられると、蜂の群れが飛来したような音が耳元で響き、振動台の油圧ロッドが激しく振動し始めた。地震が襲ってきたのだ。

 振動が止むと、数名の研究者が振動台に駆け寄り、住宅模型の隅々まで丁寧に点検し、ひび割れが発生した部分にマークを付けた。

 肉眼での観察は補助的な役割に過ぎないそうだ。模型に設置された加速度センサー、変位センサー、ひずみゲージ、動画認識に基づく光点追跡技術に加え、住宅模型の両側に設置された4台の超高速カメラにより、地震後に住宅模型に発生した微細な変化を正確に捕捉することができるという。

 超高速カメラメーカー「合肥中科君達(Zhongke Junda)視界」のスタッフ・祝良応(Zhu Liangying)さんは、記者に対し「この超高速カメラはフレームレート(Frame rate)が3000に達し、毎秒6GBの画像データが得られる。建物のあらゆる微細な変化も、その『鋭い目』から逃れることはできない」と説明する。

「工力所」は、強震動観測とその応用、建築構造物の耐震設計、地震災害リスク区域の区分と対策、地震工学試験技術、地震と構造物振動測定技術など、複数の分野で豊富な成果を挙げている。昨年、「工力所」が主導して開発した新世代高速鉄道地震早期警戒監視システムは、中国国内で適用された路線長が1500キロを超え、インドネシアのジャカルタ・バンドン高速鉄道にも採用されている。

 実験が進むにつれ、地震の強度が上昇し、蜂の羽音のような音が次第に大きくなり、模型にひび割れが現れ始めた。

 6段階目の実験状況の時には、油圧ロッドが揺れると同時に記者が立っていた場所でもはっきりと揺れが感じられた。

 地震の際の大多数の人的被害は建物の倒壊によるものだという。大連理工大学建設工程学院の何化南(He Huanan)准教授は「建物の安全確保のため、中国では『小震では壊れず、中震では修復可能、大震でも倒壊しない』という耐震設計目標を定めている」と説明する。

 具体的に言えば「小震」とは多発する地震の程度を指し、50年の設計基準期間内に その震度を超える地震の発生確率が63%あり、地震後に修理が不要なレベル、「中震」とは基本的な震度の地震を指し、50年設計基準期間内にその震度を超える確率が10%あり、建物には一定の損傷が発生するが修理後には使用可能なレベル、「大震」とは稀に見る大地震を指し、設計基準期間内にその震度を超える確率が2~3%で、その際の建物の耐震設計のレベルは、建物の倒壊防止と人命の安全と保護が目標となる。

 1日掛かりの実験の結果、住宅模型は地震6度の状況下では主要部分に損傷は発生しなかった。7度と8度では、ひび割れが発生したが、フレーム部分にまでは延伸せず、建物全体には問題が無かった。

 9度では、貫通するほどのひび割れが発生したが、建物の基本構造は影響を受けず、倒壊や重大な損傷は発生しなかった。今回の3Dプリント住宅模型は震度実験をクリアし、試験は成功裏に終了した。

 孫氏は「3Dプリントコンクリート建築には多くの利点がある」と考えている。デジタル設計、積層造形(アディティブ・マニュファクチャリング)、プレファブ組み立てにより、3Dプリント建築は迅速かつ精密に建設ができ、多様な建築形状に対応することが可能だ。また、壁内に鉄筋が入る空洞を設け、鉄筋フレームと組み合わせた鉄筋コンクリート構造にすることができるので、耐震性能に優れ、安全で耐久性も確保できる。

 孫氏は「3Dプリント技術で家を建てるのは前途有望」と強調する。彼女は「新たな建設工法として、3Dプリントコンクリート住宅の信頼性は、さらなる専門的な認証と実践的な検証が必要だが、今回の縮小模型実験で優れた耐震性能を確認できたことは、今後の研究開発と関連技術の導入に自信をもたらすものだった」と語った。(c)PeopleʼsDaily/AFPBBNews